3歳児神話
   

  一般的には「3歳までは母親が子育てに専念すべきだ」という考え方ですが、内容的には三つの要素から成っています。

  第1は、子どもの成長にとって3歳までが非常に大切だという考え方。
  第2は、その大切な時期だからこそ生来的に育児の適性を持った母親が養育に専念すべきだという考え方。
  第3は、もし母親が働く等の理由で、子どもが3歳まで、あるいは就学前ぐらいまでの時期を育児に専念しないと、子どもの心身の成長にゆがみをもたらすという考え方。

  発達心理学の観点から考えると、第1の幼少期の大切さは否定できません。神話ではなく、とても大切な真実です。
  幼少期の課題は愛を知ることです。人から愛されて、他者を信頼する心を育みます。また他者から愛されて、自信を持つことができます。

  しかし、第2の「母親が育児に専念しなければならない」という考え方は修正が必要でしょう。
  幼少期に注がれるべき愛情は、適切かつ応答的な情報であり、それは母親だけが担えるものとは限らないからです。子どもを抱き、笑顔であやし、食事を与えるという養育者の行動は、いずれも触覚、視覚、聴覚、味覚等の情報として子どもにキャッチされています。
  そこには子どもを愛おしく思い、子どもが育つ力を精一杯支援しようという責任感に裏付けられた温かな思いやりが込められている必要があります。

  こうした愛情を注ぐよう、母親も勿論、努力すべきですが、母親以外の人、父親や祖父母、保育者や地域の人々にも可能ですし、現に多くの人々がそうした養育行動を発揮しています。
  逆に母親であっても、置かれている生活環境が厳しい等の原因があって、苛立ちやストレスを強めてしまう結果、子どもに適切な愛情を注げない事例は少なくありません。

  第3の点については、実証的データに基づいて多面的かつ慎重な論議が必要です。
  アメリカにおいて生後から10年近く縦断的に行われた調査では、子どもの発達は母親の就労の有無だけでは差がみられないこと、仮に母親が働いていても、
@働く意義を母親自身が自覚し
A家族の理解と協力がある
B日中の保育環境が優れている
C職場環境が家庭と仕事の両立支援を行っている
等の条件が整っている場合には、子どもの発達は知的にも社会性や情緒面でも優れていることを報告しています(Gottfried,A.E.,Gottfried,A.W.1988)。

  しかし、保育の質や保育時間の長さによって子どもの発達や母子関係に全く影響がないわけではありません。
乳幼児期の子どもにとって大切なのは保育の質や時間を含めて親がどのような保育を選ぶかであり、その点も含めて親や家族の特徴(家族関係、経済的特徴、母親の性格や仕事に対する態度・心理的充足度・子どもの心を読みとる力)が問われるといいます(サラ・フリードマン 2000)。
  いずれの研究も母親の就労は単に女性の問題だけではなく、家族のあり方、保育の質、企業の両立支援など、社会全体が取り組むべき課題であることを示唆しています。

  こうして考えると、三歳児神話について検討するということは、まさに子育て支援のあり方を考えることに他なりません。

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